エコノミストマネー:負担を負うのは誰か 政府と民間のキャッチボール
マーケット最前線 ニューヨーク株(エコノミストマネー2010年7月号より)
2007年に始まった一連の金融危機は、2つの局面に分けて考えることが重要だ。
第1の局面は住宅など資産価格下落を主因とする不良債権問題。第2の局面は、リーマン破綻により「大き過ぎて潰せない」という前提が崩れた金融システムの危機である。
第2の局面は、すでに米政府による積極的な財政・金融政策と、09年春に米財務省が発した大手19行保護の声明を受けて過去のものとなった。言い換えれば、リスクを民間からソブリン(政府)に移転することで、乗り切ることができた。
一方、第1の局面に対してはまだ、これといった解決策が見いだされていないのが現実だ。住宅価格は代表的指数であるケース・シラー住宅指数で見ると、06年の最高値から32%下落した後、今年3月時点までわずか3.5%回復したのみである。連邦準備制度理事会による住宅ローン証券購入、新規住宅購入支援策、住宅ローン条件変更プログラムなど、あらゆる策が講じられ、しかも、そのほとんどが延長に延長を重ねられたにもかかわらず、この結果である。
また、米国の代表的株価指数であるダウ平均にしても、S&P500指数にしても、これだけ上昇した後でもいわゆるリーマン・ショック前の水準をまだ回復できないでいる。すなわち、第1の局面はまだ継続中であるという現実は受け止めなければならないのだ。
民間からソブリンにリスクが移転され、問題は弱いソブリンから顕在化し始めた。ドバイに始まり、ギリシャ、スペインなど欧州に信用不安が飛び火、このまま行けば将来、日本や米国の財政も問題視されるのは避けられないだろう。
とりわけ、米国の財政は過去のものとは異なる。08年9月に実質破綻した政府系住宅金融機関のファニーメイやフレディーマックを全面保証することによって、米国の住宅ローン焦げ付きに伴う損失のほとんどを、今後は米国政府が負担することになっている。保証ということで負担はまだ数字としてあまり顕在化していないが、損失が発生し始めるとそれがどんどん膨れ上がっていくという性質を内包している。
こうしたなか、米国議会ではソブリンに移転され過ぎたリスクを民間に戻そうとする動きが起きている。
その1つが新金融規制である。昨年末に下院を通過して以降、遅々として進まなかった上院の審議が進展し始めた。修正案それぞれに投票が実施され、多くが全会一致からほど遠い結果で可決や否決されるなか、全会一致で可決されたのが「金融機関の救済に納税者はビタ一文負担しない」という条項である。
確かに、納税者のお金で直接間接に救済された大手金融機関の、その後の行動には目に余るものがあった。利益を私物化、リスクを社会化して税金で助けてもらったと思ったら、その後再び利益の私物化に走るという強欲さ。米国国民の怒りは十分理解できる。
しかし一方、米国の金融システムがここまで回復し、上記の第2局面を乗り越えることができたのは、公的資金による大手金融機関の救済があったからに他ならない。市場の関心が欧州の信用不安問題に向かう間に、米国議会はいつの間にか金融システム防御のハシゴを外している。もし再び危機が訪れた時、米国の金融システムは公的資金なしで生き残れるのだろうか?
■堀古 英司(ほりこ・ひでじ)ホリコ・キャピタル マネジメント社長(NYでヘッジファンドを運用)
2007年に始まった一連の金融危機は、2つの局面に分けて考えることが重要だ。
第1の局面は住宅など資産価格下落を主因とする不良債権問題。第2の局面は、リーマン破綻により「大き過ぎて潰せない」という前提が崩れた金融システムの危機である。
第2の局面は、すでに米政府による積極的な財政・金融政策と、09年春に米財務省が発した大手19行保護の声明を受けて過去のものとなった。言い換えれば、リスクを民間からソブリン(政府)に移転することで、乗り切ることができた。
一方、第1の局面に対してはまだ、これといった解決策が見いだされていないのが現実だ。住宅価格は代表的指数であるケース・シラー住宅指数で見ると、06年の最高値から32%下落した後、今年3月時点までわずか3.5%回復したのみである。連邦準備制度理事会による住宅ローン証券購入、新規住宅購入支援策、住宅ローン条件変更プログラムなど、あらゆる策が講じられ、しかも、そのほとんどが延長に延長を重ねられたにもかかわらず、この結果である。
また、米国の代表的株価指数であるダウ平均にしても、S&P500指数にしても、これだけ上昇した後でもいわゆるリーマン・ショック前の水準をまだ回復できないでいる。すなわち、第1の局面はまだ継続中であるという現実は受け止めなければならないのだ。
民間からソブリンにリスクが移転され、問題は弱いソブリンから顕在化し始めた。ドバイに始まり、ギリシャ、スペインなど欧州に信用不安が飛び火、このまま行けば将来、日本や米国の財政も問題視されるのは避けられないだろう。
とりわけ、米国の財政は過去のものとは異なる。08年9月に実質破綻した政府系住宅金融機関のファニーメイやフレディーマックを全面保証することによって、米国の住宅ローン焦げ付きに伴う損失のほとんどを、今後は米国政府が負担することになっている。保証ということで負担はまだ数字としてあまり顕在化していないが、損失が発生し始めるとそれがどんどん膨れ上がっていくという性質を内包している。
こうしたなか、米国議会ではソブリンに移転され過ぎたリスクを民間に戻そうとする動きが起きている。
その1つが新金融規制である。昨年末に下院を通過して以降、遅々として進まなかった上院の審議が進展し始めた。修正案それぞれに投票が実施され、多くが全会一致からほど遠い結果で可決や否決されるなか、全会一致で可決されたのが「金融機関の救済に納税者はビタ一文負担しない」という条項である。
確かに、納税者のお金で直接間接に救済された大手金融機関の、その後の行動には目に余るものがあった。利益を私物化、リスクを社会化して税金で助けてもらったと思ったら、その後再び利益の私物化に走るという強欲さ。米国国民の怒りは十分理解できる。
しかし一方、米国の金融システムがここまで回復し、上記の第2局面を乗り越えることができたのは、公的資金による大手金融機関の救済があったからに他ならない。市場の関心が欧州の信用不安問題に向かう間に、米国議会はいつの間にか金融システム防御のハシゴを外している。もし再び危機が訪れた時、米国の金融システムは公的資金なしで生き残れるのだろうか?
■堀古 英司(ほりこ・ひでじ)ホリコ・キャピタル マネジメント社長(NYでヘッジファンドを運用)











