エコノミストマネー:人民元対ドル相場、小幅切り上げを容認か
マーケット最前線 為替相場の読み方(エコノミストマネー2010年6月号より)
中国の人民元切り上げ問題が4月12日に行われた米中首脳会談で主要議題の1つになり、オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席がそれぞれの主張を展開した。核安全保障サミット終了後のオバマ大統領の記者会見内容から、両者の主張を確認しておこう。
「為替の問題について、胡国家主席と私は率直な話し合いを何度も行ってきた。G20(主要20カ国)首脳会議の取り組みの一環として、世界経済の不均衡是正が持続的な経済成長と将来の危機防止のために重要だという考えに、我々は同意している」
「不均衡是正の一環として、為替相場が市場動向をおおむね反映し、特定国の利益にならないようにする必要があると、我々は考えている」
「中国が為替相場(人民元)の問題を国家主権の問題だと認識しているのは正しい。為替・金融政策の決定において、中国は国際的な圧力には抵抗するだろう。
しかし、中国はいずれ、輸出に大きく依存した経済から、国内消費や生産を重視し、自国経済の中でバブルが膨らむのを防ぐような経済に移行する必要がある、というのが私の考えだ。より市場を指向した為替相場のアプローチは、そうした移行を促すものだ」
「私はタイムテーブルを持ち合わせていないが、中国が最終的に、自らの最善の利益になる決定を下すことを希望している」
表面的には、米中両国はともに、従来の主張を繰り返した形である。しかし、筆者は、実際には中国が人民元相場の制度改革(人民元対ドル相場の変動幅を現行の上下0.5%から拡大)をしたうえで、中国人民銀行による元売りドル買い介入の実施度合いを調整して小幅上昇を容認する環境整備(一種の「地ならし」)のためのイベントになったと受け止めている。
「自発的な(=外圧に屈したわけではない)政策決定である」という説明付きで、中国は近く、人民元対ドル相場の変動幅拡大を発表するのではないか。それと同時に、あるいはしばらくの間、人民元相場の緩やかな上昇がみられそうだ。
◇連動する円高は限定的
ただし、人民元の上昇幅は中国経済、特に中国沿海部の輸出企業の業績への悪影響を警戒して、わずかなものにとどまるだろう。時期としては、半年に1回開催される米中経済戦略対話が予定される5月下旬までが有力視される。
なお、市場では、人民元の変動幅拡大(事実上は小幅切り上げ)が発表されると、ドル・円相場は円高・ドル安に動くとの見方が根強い。筆者も基本的に同感である。日本と中国の貿易構造は異なっており、人民元と円が連動して動く論理的な必然性はない。しかし、資本規制ゆえに自由に取引できない通貨である人民元のいわば「身代わり」として、円をはじめとする他のアジア通貨に買い圧力がかかるとみることに、無理はない。
ただし、既に述べたように、中国が当面許容し得る人民元上昇幅は小さなものだろう。従って、円高がこの問題から進行する余地も、おのずと限られる。今回は、人民元が2.1%切り上げられた2005年7月21日のように、ドル・円相場が112円台後半から109円台後半へと、1日のうちに3円も円高に動くようなことはあるまい。
しかも、このケースでも円高の動きは一過性で、同月26日には112円台後半の水準を取り戻していた。
■上野 泰也(うえの やすなり)みずほ証券チーフマーケットエコノミスト
中国の人民元切り上げ問題が4月12日に行われた米中首脳会談で主要議題の1つになり、オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席がそれぞれの主張を展開した。核安全保障サミット終了後のオバマ大統領の記者会見内容から、両者の主張を確認しておこう。
「為替の問題について、胡国家主席と私は率直な話し合いを何度も行ってきた。G20(主要20カ国)首脳会議の取り組みの一環として、世界経済の不均衡是正が持続的な経済成長と将来の危機防止のために重要だという考えに、我々は同意している」
「不均衡是正の一環として、為替相場が市場動向をおおむね反映し、特定国の利益にならないようにする必要があると、我々は考えている」
「中国が為替相場(人民元)の問題を国家主権の問題だと認識しているのは正しい。為替・金融政策の決定において、中国は国際的な圧力には抵抗するだろう。
しかし、中国はいずれ、輸出に大きく依存した経済から、国内消費や生産を重視し、自国経済の中でバブルが膨らむのを防ぐような経済に移行する必要がある、というのが私の考えだ。より市場を指向した為替相場のアプローチは、そうした移行を促すものだ」
「私はタイムテーブルを持ち合わせていないが、中国が最終的に、自らの最善の利益になる決定を下すことを希望している」
表面的には、米中両国はともに、従来の主張を繰り返した形である。しかし、筆者は、実際には中国が人民元相場の制度改革(人民元対ドル相場の変動幅を現行の上下0.5%から拡大)をしたうえで、中国人民銀行による元売りドル買い介入の実施度合いを調整して小幅上昇を容認する環境整備(一種の「地ならし」)のためのイベントになったと受け止めている。
「自発的な(=外圧に屈したわけではない)政策決定である」という説明付きで、中国は近く、人民元対ドル相場の変動幅拡大を発表するのではないか。それと同時に、あるいはしばらくの間、人民元相場の緩やかな上昇がみられそうだ。
◇連動する円高は限定的
ただし、人民元の上昇幅は中国経済、特に中国沿海部の輸出企業の業績への悪影響を警戒して、わずかなものにとどまるだろう。時期としては、半年に1回開催される米中経済戦略対話が予定される5月下旬までが有力視される。
なお、市場では、人民元の変動幅拡大(事実上は小幅切り上げ)が発表されると、ドル・円相場は円高・ドル安に動くとの見方が根強い。筆者も基本的に同感である。日本と中国の貿易構造は異なっており、人民元と円が連動して動く論理的な必然性はない。しかし、資本規制ゆえに自由に取引できない通貨である人民元のいわば「身代わり」として、円をはじめとする他のアジア通貨に買い圧力がかかるとみることに、無理はない。
ただし、既に述べたように、中国が当面許容し得る人民元上昇幅は小さなものだろう。従って、円高がこの問題から進行する余地も、おのずと限られる。今回は、人民元が2.1%切り上げられた2005年7月21日のように、ドル・円相場が112円台後半から109円台後半へと、1日のうちに3円も円高に動くようなことはあるまい。
しかも、このケースでも円高の動きは一過性で、同月26日には112円台後半の水準を取り戻していた。
■上野 泰也(うえの やすなり)みずほ証券チーフマーケットエコノミスト












