エコノミストマネー:日本が優先すべきは「出口」よりデフレ脱却
金融副大臣 大塚耕平の経済をみる「眼」(エコノミストマネー2010年5月号より)
世界各国はマクロ経済政策を非常時モードから平時モードに戻す「出口戦略」に傾注しています。
「出口」に向かう先頭集団は、金融危機の影響が比較的小さかったうえに潜在成長率も高く、景気回復が先行している新興国が中心ですが、トップランナーはオーストラリア。顕著な回復軌道をたどり、もはや「出口」を通り抜けた感すらあります。
昨秋から4回の利上げを実施し、政策金利は5%前後とほぼ平時モード。資源国としての特殊事情も寄与し、中国の需要増などを牽引役に、18世紀末の入植以来の鉱山ブームに沸いています。
中国も昨年10~12月の実質国内総生産(GDP)が前年同期比10.7%の高成長。地価や物価も高騰し、中国人民銀行(中央銀行)は今年に入って預金準備率を2度引き上げました。巨額財政出動を続ける典型的なポリシーミックスを駆使しています。インドやブラジルも預金準備率を引き上げ、中国を追走しています。
これら先頭集団を追う第2集団は、欧米。米国は連邦準備制度理事会(FRB)が2月に公定歩合を引き上げたものの失業率は高止まり、実質的なゼロ金利状態が続いています。欧州中央銀行(ECB)も3月4日に非常時モードの資金供給策を縮小。ただ、欧州連合(EU)域内ではギリシャの財政危機問題などを抱え、金利引き上げなど本格的な「出口戦略」には踏み切れていません。
しかし、最後尾を走る日本にとって、安易な追走は禁物。主要国のなかで唯一のデフレ状態が続いており、「出口戦略」よりも「デフレ脱却」を優先すべき局面です。
◇失策も無策も許されず
デフレの要因は4つ。第1は需要不足。供給能力に対して需要が足りず、需給ギャップが生じている状態です。第2に通貨供給不足。マネーサプライ(通貨供給量)が十分ではない状態です。第3には、イノベーション(技術革新)などによる価格低下圧力。「良い物価下落」とも言えますが、その行き過ぎは弊害も招きます。第4は海外要因。経済の国際化が進み、新興国の人件費や製品価格の影響を受けることを意味します。
このうち、第3の要因は企業自身の価格設定の問題。低価格で市場シェアを拡大する経営戦略は、結果的にはデフレスパイラルを招きます。第4の要因に対しては為替による調整メカニズムが働くはずです。例えば、日中間では、中国の貿易黒字拡大は円安・人民元高になることを意味します。ところが、人民元相場は完全な変動相場制に移行していないうえ、ドルペッグ(連動)制のため、経済実勢が反映されません。
第1の要因への対策は主に政府の仕事。景気回復と需要増加は「鶏と卵」のような関係ですが、財政出動によってカンフル剤的な需要を人為的に創造したり、過剰設備の廃棄を促す産業政策的な工夫も必要です。
第2の要因への対策は中央銀行の仕事。中央銀行が国債を資産として持つことは、通貨供給を行うことと同義。政府は助かるうえ、通貨信用力の面から言えば円安圧力となり、為替政策の視点からも整合的です。
もっとも、日本は膨大な財政赤字を抱えています。財政出動のための国債発行、中央銀行による過度の国債購入は、長期金利の上昇リスクと表裏一体。また、長期金利の上昇は金利面からは円高、国の信用面からは円安要因であり、どちらが強く顕現化するかは予測できません。
政府も中央銀行もジレンマに陥っていますが、マクロ経済政策は今、失策も無策も許されない局面です。
■大塚 耕平(おおつか こうへい)1959年、名古屋市生まれ。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、日銀に入行。在籍中に同大学院博士課程(マクロ経済学、財政金融論)修了。2001年から参院議員(現在2期目)。中央大学大学院、早稲田大学客員教授を兼務。民主党きっての経済政策通として知られる。











