エコノミストマネー:「ソブリンリスクの年」円も売り圧力強まるか
マーケット最前線 為替相場の読み方(エコノミストマネー2010年4月号より)
2009年は財政政策と金融政策の総動員によって、リーマン・ショック後の世界経済のフリーフォール(垂直落下)に歯止めをかけ、金融市場の安定化に何とか漕ぎ着けた年だった。そして10年は「ソブリンリスク(国家の信用リスク)の年」だと指摘する向きが少なくない。
景気悪化と経済対策で大幅に悪化した各国の財政状況は、どこまで早期に立て直すことが可能なのか。財政健全化がなかなか進まず、国債の格付けが引き下げられて長期金利が「悪い上昇」をし、その国の通貨が売りを浴び続けるのだろうか。
市場の焦点になっているのは、ギリシャやポルトガルといった、ユーロ圏内の南欧諸国の動向である。日本や米国よりも、特にユーロ圏内のソブリンリスクが注目されているのは、欧州通貨統合の矛盾が露呈しており、ユーロ売り材料に使いやすいからだろう。
◇露呈したユーロの矛盾
ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)が金融政策を画一的にコントロールしており、圏内各国の景気の良しあしにかなりの差があっても、政策金利は一律である。その一方、財政政策は通貨統合に参加した各国の主権に委ねられており、財政赤字の名目GDP(国内総生産)比を3%以内に抑制するという安定・成長協定の縛りにとどまっている。財政政策については制度上、「各国が規律をしっかり持ち運営するはずだ」という一種の性善説がとられていると言える。だからこそ、ギリシャ政権が過去の財政状況について虚偽の数字をEU(欧州連合)に報告していたことが明らかになったことで、ユーロ圏全体が震撼した。
また、通貨統合参加国の債券発行による資金調達は、基本的に各国別々に、ユーロ建ての国債発行で行われている。特定の国の信用力が低下し、国債による資金調達金利の急上昇が財政赤字のさらなる膨張につながり、さらには今回のギリシャのように債務不履行(デフォルト)が市場で警戒されるケースにどう対処すべきかという、いわゆる「コンティンジェンシー・プラン」(緊急避難措置および計画)が欠如している点を、ユーロ圏は市場に突かれた。
財政面でも、より統一感を出そうというアイデアは複数あるが、それらだけでは根本的解決策にはなりにくい。
ブリュッセルで2月11日に開かれたEU非公式首脳会議は、ギリシャ問題を協議し、同国への支援で合意した。ただし、これは「政治的なメッセージ」(EU大統領のファン・ロンパウ欧州理事会常任議長)で、「精神論」の範囲に属する合意にすぎない。その後のEU財務相会合でも、対ギリシャ支援策が積極的・具体的に打ち出されることはなかった。
資金支援や債務保証といった救済措置をEU側が早い段階で安易に発動してしまうと、ギリシャ政府が欧州委員会に確約している財政赤字削減目標(名目GDP比を09年の12・7%から12年に3%以内に抑制)の実現に向けた自助努力が損なわれてしまいかねないというジレンマがあるがゆえだろう。さらに、EU全体にせよ、独仏といった個別国との2国間ベースにせよ、ギリシャを支援した側に、ギリシャの信用リスクが移転することになる。独政府はこれを嫌がっているようだ。
今年、ソブリンリスク絡みで売り圧力が強まる通貨は、ユーロだけとは限らない。英ポンド、米ドル、円についても、一定のシナリオを想定しておくべきだろう。
■上野 泰也(うえの やすなり)みずほ証券チーフマーケットエコノミスト
2009年は財政政策と金融政策の総動員によって、リーマン・ショック後の世界経済のフリーフォール(垂直落下)に歯止めをかけ、金融市場の安定化に何とか漕ぎ着けた年だった。そして10年は「ソブリンリスク(国家の信用リスク)の年」だと指摘する向きが少なくない。
景気悪化と経済対策で大幅に悪化した各国の財政状況は、どこまで早期に立て直すことが可能なのか。財政健全化がなかなか進まず、国債の格付けが引き下げられて長期金利が「悪い上昇」をし、その国の通貨が売りを浴び続けるのだろうか。
市場の焦点になっているのは、ギリシャやポルトガルといった、ユーロ圏内の南欧諸国の動向である。日本や米国よりも、特にユーロ圏内のソブリンリスクが注目されているのは、欧州通貨統合の矛盾が露呈しており、ユーロ売り材料に使いやすいからだろう。
◇露呈したユーロの矛盾
ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)が金融政策を画一的にコントロールしており、圏内各国の景気の良しあしにかなりの差があっても、政策金利は一律である。その一方、財政政策は通貨統合に参加した各国の主権に委ねられており、財政赤字の名目GDP(国内総生産)比を3%以内に抑制するという安定・成長協定の縛りにとどまっている。財政政策については制度上、「各国が規律をしっかり持ち運営するはずだ」という一種の性善説がとられていると言える。だからこそ、ギリシャ政権が過去の財政状況について虚偽の数字をEU(欧州連合)に報告していたことが明らかになったことで、ユーロ圏全体が震撼した。
また、通貨統合参加国の債券発行による資金調達は、基本的に各国別々に、ユーロ建ての国債発行で行われている。特定の国の信用力が低下し、国債による資金調達金利の急上昇が財政赤字のさらなる膨張につながり、さらには今回のギリシャのように債務不履行(デフォルト)が市場で警戒されるケースにどう対処すべきかという、いわゆる「コンティンジェンシー・プラン」(緊急避難措置および計画)が欠如している点を、ユーロ圏は市場に突かれた。
財政面でも、より統一感を出そうというアイデアは複数あるが、それらだけでは根本的解決策にはなりにくい。
ブリュッセルで2月11日に開かれたEU非公式首脳会議は、ギリシャ問題を協議し、同国への支援で合意した。ただし、これは「政治的なメッセージ」(EU大統領のファン・ロンパウ欧州理事会常任議長)で、「精神論」の範囲に属する合意にすぎない。その後のEU財務相会合でも、対ギリシャ支援策が積極的・具体的に打ち出されることはなかった。
資金支援や債務保証といった救済措置をEU側が早い段階で安易に発動してしまうと、ギリシャ政府が欧州委員会に確約している財政赤字削減目標(名目GDP比を09年の12・7%から12年に3%以内に抑制)の実現に向けた自助努力が損なわれてしまいかねないというジレンマがあるがゆえだろう。さらに、EU全体にせよ、独仏といった個別国との2国間ベースにせよ、ギリシャを支援した側に、ギリシャの信用リスクが移転することになる。独政府はこれを嫌がっているようだ。
今年、ソブリンリスク絡みで売り圧力が強まる通貨は、ユーロだけとは限らない。英ポンド、米ドル、円についても、一定のシナリオを想定しておくべきだろう。
■上野 泰也(うえの やすなり)みずほ証券チーフマーケットエコノミスト











