エコノミストマネー:商品インフレ・資産デフレ FRBの舵取り困難に
マーケット最前線 ニューヨーク株(エコノミストマネー2010年2月号より)
2009年2月に成立したオバマ景気対策、および9月のリーマン・ショック後に米連邦準備制度理事会(FRB)が発動した非伝統的金融緩和策が奏功する形で、09年の米株式相場は3月の安値から大幅な上昇をみせた。実際、09年末時点で景気は回復基調にある一方、インフレ率も資産デフレも落ち着いている。不良債権問題という病気に対して薬がよく効いており、副作用も出ていない理想的な状態と言えよう。
しかし、この状態が長く続く可能性は低い。なぜなら、まず10年前半には投薬が止められる見通しであること、次に投薬の副作用が出てくる可能性が高まってくるからだ。
リーマン・ショック後のFRBの懸念は、短期金利をいくら引き下げてもそれが長期金利に反映されない、たとえ国債利回りには反映されても、信用不安から資産担保証券(ABS)の利回りには反映されない、ということであった。そこでFRBは一時的に長期金利を引き下げる非伝統的金融政策を発動した。1つは長期国債の買い取りであり、もう1つは住宅ローン証券をはじめとするABSの買い取りである。
この結果、長期国債の利回りも住宅ローン証券の利回りも人工的に低く歪められ、いずれも史上最低水準を記録するに至った。そして、長期国債の利回り低下を受けて株式相場が上昇。住宅ローン証券の利回り低下を受けて、住宅価格の下落が止まるに至ったのはご承知の通りだ。
しかし、FRBは09年10月末をもって長期国債の買い取りを停止した。これを受けて、同月末に3・3%台だった米10年物国債利回りは、12月末に3・8%台にまで上昇した。ABSの買い取り期限は10年春から6月末まで延長になったものの、買い取り額を順次減少させていくと発表している。したがって、ABSの利回りについても順次上昇していくとみるのが自然である。
こうした金融環境下、FRBが長期金利のさらなる上昇につながりかねない短期金利の引き上げには踏み切れない状態が10年内は続くことになろう。このため、今後起こる可能性が高いのは商品価格のインフレと資産デフレの共存である。
◇金1300ドル目指す展開
とりわけ10年前半は、資産保全の役割を併せ持つ金が買われる可能性が高いとみている。しかも金市場は、株式や債券市場と比較して極端に市場規模が小さいこともあり、少しの資金流入でも価格は敏感に反応してくるはずだ。当稿執筆時点で1トロイ オンス=1100ドル台の金は早晩、昨年12月3日に付けた同1226ドルの史上最高値を更新し、1300ドルを目指す展開になるとみている。
問題は資産価格である。FRBが長期国債の買い取りをやめ、ABSの買い取りを減少させていくなか、少なくとも長期金利は下がりにくくなる。
一方で、前述の通り短期金利がほぼゼロに据え置かれるなか、商品インフレが進行、インフレ懸念から長期金利が上昇してしまう可能性がある。こうなると住宅ローン金利の上昇を通じて住宅価格をはじめとする資産価格が下落し、再び金融機関の不良債権問題がクローズアップされる状況になりかねない。
非伝統的金融緩和策という投薬をやめる以上、FRBは商品インフレという副作用と、不良債権問題という元の病気と闘わなければならなくなる。FRBが両者と同時に対峙する手段を持っていないと認識されるようになったとき、市場は厄介な局面を迎えることになろう。
■堀古 英司(ほりこ ひでじ) ホリコ・キャピタル マネジメント社長(NYでヘッジファンドを運用)
2009年2月に成立したオバマ景気対策、および9月のリーマン・ショック後に米連邦準備制度理事会(FRB)が発動した非伝統的金融緩和策が奏功する形で、09年の米株式相場は3月の安値から大幅な上昇をみせた。実際、09年末時点で景気は回復基調にある一方、インフレ率も資産デフレも落ち着いている。不良債権問題という病気に対して薬がよく効いており、副作用も出ていない理想的な状態と言えよう。
しかし、この状態が長く続く可能性は低い。なぜなら、まず10年前半には投薬が止められる見通しであること、次に投薬の副作用が出てくる可能性が高まってくるからだ。
リーマン・ショック後のFRBの懸念は、短期金利をいくら引き下げてもそれが長期金利に反映されない、たとえ国債利回りには反映されても、信用不安から資産担保証券(ABS)の利回りには反映されない、ということであった。そこでFRBは一時的に長期金利を引き下げる非伝統的金融政策を発動した。1つは長期国債の買い取りであり、もう1つは住宅ローン証券をはじめとするABSの買い取りである。
この結果、長期国債の利回りも住宅ローン証券の利回りも人工的に低く歪められ、いずれも史上最低水準を記録するに至った。そして、長期国債の利回り低下を受けて株式相場が上昇。住宅ローン証券の利回り低下を受けて、住宅価格の下落が止まるに至ったのはご承知の通りだ。
しかし、FRBは09年10月末をもって長期国債の買い取りを停止した。これを受けて、同月末に3・3%台だった米10年物国債利回りは、12月末に3・8%台にまで上昇した。ABSの買い取り期限は10年春から6月末まで延長になったものの、買い取り額を順次減少させていくと発表している。したがって、ABSの利回りについても順次上昇していくとみるのが自然である。
こうした金融環境下、FRBが長期金利のさらなる上昇につながりかねない短期金利の引き上げには踏み切れない状態が10年内は続くことになろう。このため、今後起こる可能性が高いのは商品価格のインフレと資産デフレの共存である。
◇金1300ドル目指す展開
とりわけ10年前半は、資産保全の役割を併せ持つ金が買われる可能性が高いとみている。しかも金市場は、株式や債券市場と比較して極端に市場規模が小さいこともあり、少しの資金流入でも価格は敏感に反応してくるはずだ。当稿執筆時点で1トロイ オンス=1100ドル台の金は早晩、昨年12月3日に付けた同1226ドルの史上最高値を更新し、1300ドルを目指す展開になるとみている。
問題は資産価格である。FRBが長期国債の買い取りをやめ、ABSの買い取りを減少させていくなか、少なくとも長期金利は下がりにくくなる。
一方で、前述の通り短期金利がほぼゼロに据え置かれるなか、商品インフレが進行、インフレ懸念から長期金利が上昇してしまう可能性がある。こうなると住宅ローン金利の上昇を通じて住宅価格をはじめとする資産価格が下落し、再び金融機関の不良債権問題がクローズアップされる状況になりかねない。
非伝統的金融緩和策という投薬をやめる以上、FRBは商品インフレという副作用と、不良債権問題という元の病気と闘わなければならなくなる。FRBが両者と同時に対峙する手段を持っていないと認識されるようになったとき、市場は厄介な局面を迎えることになろう。
■堀古 英司(ほりこ ひでじ) ホリコ・キャピタル マネジメント社長(NYでヘッジファンドを運用)











