エコノミストマネー:マーケット最前線 為替相場の読み方(2009年12月号)
上野 泰也 みずほ証券チーフマーケットエコノミスト
◇基軸通貨になれないユーロ
米財務省が10月15日に公表した国際経済と為替政策に関する半期報告には、「米ドルの準備通貨としての地位に関する歴史的考察」と題した補論が付加されていた。その論は「米国が健全なマクロ経済政策とともに、深みがあり、流動性が十分で、オープンな金融市場を維持する限り、ドルは主要な準備通貨であり続けることだろう」と締めくくられている。
ドルは過去60年以上、主要な準備通貨であり続けている。その間、ブレトンウッズ体制の崩壊と変動相場制への移行、欧州単一通貨ユーロの登場といった節目ごとに、ドルの地位が低下するのではないかという「ドル退位論」が浮上した。しかし、国際通貨基金(IMF)の世界外貨準備高の集計では、ドルのシェアは30年前とほとんど変わっていない。
それでは、ユーロ圏の経済規模は米国の経済規模を若干下回る程度であり、米国と比較して遜色ない面が多いにもかかわらず、世界の外貨準備高に占めるユーロの比率が30%未満で推移している理由は何だろうか。
◇ユーロの限界
今回の米財務省の報告はその理由について、「ユーロ圏には統一された国債市場がないからだ」と結論付けている。ユーロ圏の国債の市場規模は確かに米国に匹敵するが、あくまでも各国別に発行された国債の合計額だ。単一の国債市場が存在しないため、ユーロ建て債券を保有している投資家が売買を行うことは、米国債市場で売買することに比べて容易ではない、というのである。
確かに、そのような面はある。ドイツの連邦債(国債)が欧州債券市場では指標的な位置付けになっているが、フランスなど、その他諸国で実施される国債入札の動向もまた、材料になる。同じユーロ圏でも、ギリシャやアイルランドの国債は、ドイツ国債との利回り格差が相対的に大きい。ユーロ圏では、財政政策が国ごとに実施されていることが、国債市場の複雑な構造につながっている。
米財務省の報告がなされた同日、フランクフルトの会合でトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁は、「ユーロという通貨は、単一市場を完成させる一助となるよう考案されたものだ」「ユーロの国際的な使用を促進しようと計画したことはない」と言明した。ドルに次ぐ第2の準備通貨としての地位を既に確立しているユーロには、将来ドルに取って代わろうとする野心がないことを、間接的に強調していた。
為替市場では、構造不況に陥っている米国の超低金利政策が長引くのではないかといった見方を背景に、ドル安・ユーロ高が進行しやすくなっている。ここで、トリシェ総裁がユーロの将来像について強気の発言を行うとユーロ高が一段と進行し、ユーロ圏の景気・物価を下押しする圧力が増してしまう。トリシェ発言には、そのような足元の為替相場動向への配慮があったものと考えられる。
しかし、それだけではあるまい。先日久しぶりに再会したドイツの友人は、EUの新基本条約であるリスボン条約が発効し、常任の欧州理事会議長(いわゆるEU大統領)が登場しても、欧州では結局、主権国家同士の足の引っ張り合いが続くだろうと、先行きを悲観的にみていた。トリシェ総裁もまた、単一の主権に裏付けられていないユーロという通貨の限界を、内心では感じているのではあるまいか。(2009年12月号)
◇基軸通貨になれないユーロ
米財務省が10月15日に公表した国際経済と為替政策に関する半期報告には、「米ドルの準備通貨としての地位に関する歴史的考察」と題した補論が付加されていた。その論は「米国が健全なマクロ経済政策とともに、深みがあり、流動性が十分で、オープンな金融市場を維持する限り、ドルは主要な準備通貨であり続けることだろう」と締めくくられている。
ドルは過去60年以上、主要な準備通貨であり続けている。その間、ブレトンウッズ体制の崩壊と変動相場制への移行、欧州単一通貨ユーロの登場といった節目ごとに、ドルの地位が低下するのではないかという「ドル退位論」が浮上した。しかし、国際通貨基金(IMF)の世界外貨準備高の集計では、ドルのシェアは30年前とほとんど変わっていない。
それでは、ユーロ圏の経済規模は米国の経済規模を若干下回る程度であり、米国と比較して遜色ない面が多いにもかかわらず、世界の外貨準備高に占めるユーロの比率が30%未満で推移している理由は何だろうか。
◇ユーロの限界
今回の米財務省の報告はその理由について、「ユーロ圏には統一された国債市場がないからだ」と結論付けている。ユーロ圏の国債の市場規模は確かに米国に匹敵するが、あくまでも各国別に発行された国債の合計額だ。単一の国債市場が存在しないため、ユーロ建て債券を保有している投資家が売買を行うことは、米国債市場で売買することに比べて容易ではない、というのである。
確かに、そのような面はある。ドイツの連邦債(国債)が欧州債券市場では指標的な位置付けになっているが、フランスなど、その他諸国で実施される国債入札の動向もまた、材料になる。同じユーロ圏でも、ギリシャやアイルランドの国債は、ドイツ国債との利回り格差が相対的に大きい。ユーロ圏では、財政政策が国ごとに実施されていることが、国債市場の複雑な構造につながっている。
米財務省の報告がなされた同日、フランクフルトの会合でトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁は、「ユーロという通貨は、単一市場を完成させる一助となるよう考案されたものだ」「ユーロの国際的な使用を促進しようと計画したことはない」と言明した。ドルに次ぐ第2の準備通貨としての地位を既に確立しているユーロには、将来ドルに取って代わろうとする野心がないことを、間接的に強調していた。
為替市場では、構造不況に陥っている米国の超低金利政策が長引くのではないかといった見方を背景に、ドル安・ユーロ高が進行しやすくなっている。ここで、トリシェ総裁がユーロの将来像について強気の発言を行うとユーロ高が一段と進行し、ユーロ圏の景気・物価を下押しする圧力が増してしまう。トリシェ発言には、そのような足元の為替相場動向への配慮があったものと考えられる。
しかし、それだけではあるまい。先日久しぶりに再会したドイツの友人は、EUの新基本条約であるリスボン条約が発効し、常任の欧州理事会議長(いわゆるEU大統領)が登場しても、欧州では結局、主権国家同士の足の引っ張り合いが続くだろうと、先行きを悲観的にみていた。トリシェ総裁もまた、単一の主権に裏付けられていないユーロという通貨の限界を、内心では感じているのではあるまいか。(2009年12月号)











